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ホーム > モノ作りの現場から > agari 東山風 #007



『Furoshiki』
『ホホンガ』と『フロシキ』

数年来、『Hohonga(ホホンガ)』という名前のブックカバーを愛用している。
本をくるみ込んだホホンガは、開くとモモンガが手足を広げたような不思議な形で、
長く伸びたしっぽを折り返すとしおりになるしくみだ。

このユニークなプロダクトの生みの親は「九印」(キュウジルシ)。

吉祥寺のワークショップでファブリックプロダクトを中心に、企画、製作、販売、研究(!)まで
自分達で行っているデザインプロダクトのブランドだ。

数年前、彼らの人気商品『Furoshiki(フロシキ)』が某デザイン誌でMOMAのキュレーターによる
現代日本のプロダクト100に選ばれていたのを覚えている。
風呂敷の様にモノの大きさに関係なく精密機器を優しく包むこの道具は、
最近でははるばる海を越えて海外のギャラリーでも扱われていると聞いた。




<進化とルーツ>
この明快なコンセプトから、「九印」のプロダクトは生み出される。

今月は、「九印」の瀬戸けいたさんに話を聞いた。

「人間が道具だと思っているモノ、バッグとか金槌なども
大きく見れば全て人間っていう動物の一部に見えると思うんです。
これを僕らは『生物=道具』というキーワードにしているんですけど。
例えばバッグにモノをポイポイと入れる行動は、
『モノを内包する』という意味で、
人間がお腹に食物を入れていくのと同じような行為に見える。
そういう視点から道具を生き物の機能に見立てて
デザインすると、その道具がより生き生きしてくるんです。」

つまり、『ホホンガ』は、食べる、ぶらさがる、といった
生き物の形態や機能を道具にミックスした
九印の「空想道具生物」の一種で、『フロシキ』はまた、
「1枚の布を身体の延長として、結ぶ、巻く、包むという
動作で幾通りにも使いこなす」という考え方から
生まれた実験的なプロダクトなのだ。

「九印が作るモノは、かわいらしくも見えるし、
人によっては気持ち悪くも見える。
そういう様々な表情をもつのが特徴なのですが、
それは生き物の表情とかしぐさとか機能を
単純に織り込んであるから生まれてくると思うんです。
基本的に僕たちの商品には時代を意識した、
スタイリッシュなモノという意識は全くなくて、
自分達のコンセプトを直接注入したらこのようになったという感じです。」

こう言い切れるところに、彼らが生み出すモノの
オリジナリティと強さがあるのかもしれない。



『mobilecase』

東洋的な「見立て」

「元来、特に東洋人は生き物の機能を見立てたり、
頂いてきたりする行為に長けた民族なんですよ。
例えば中国の工芸品などは昔から、饕餮(トウテツ)紋に
代表されるように、動物モチーフを上手く抽象化して使ってきた。
僕がすごく興味をもっているカンフーにしても、
7〜8割は動物の動きが基になっています。
例えばトラが獲物を襲う、鷹が爪を立てて獲物を掴む、
龍がぐるぐる巻きつく、とか。
攻撃方法の開発に生き物の動作や機能が
そのまま結び付いているんですよね。
元来、僕ら東洋人は自然崇拝に近い状態だったと思うので、
「生き物から何かを得る」という考え方、モノの作り方には
慣れ親しんでいたはずなんです。
最近はそういう思考が少なくなって、僕らなんかが珍しいことを
やってるように見えるのかもしれないけれど、
従来はきっと当たり前のように行われていた。
そういう意味では九印はきわめて東洋的なことを
やっているのかなって思います。」

「九字を切る」、「九曜」・・・耳慣れない言葉だが、「9」という数は
東洋において、特別な意味をもつ良い数字だそうだ。
こだわりの「9」を冠に掲げ、「九印」が1999年9月9日
(正確には9時9分9秒!)という9尽くしの日に誕生して早5年。
最近ではメキシコのオアハカで作られる木彫り等、
フォークアートを紹介する展覧会を企画したり、
日本の郷土玩具をソフビを使ってリデザインしたりと、
デザイナーという既存の枠を超え、コンセプトと新たな形を
追求しながら、独自の道を進んでいる。



『M.O.C system』

デザインのサイズ

さて、「九印記」は、「九印」のHP上に連載されている日記だ。
この日記がなかなかいい。
インタビューに答えてもらったものの、実際、僕の拙い文章は
とてもじゃないが彼らの世界観におっつかないので、
ぜひ下記のアドレスにとんでもらいたい。

季節の行事を楽しんだり、震災のニュースを契機に
モノやデザインの在り方を考えたり、
ゴミの分別から自分達が関わっている「環」を考えたりする。

娘の誕生、日々接する草花、九印デザインの源
になっているフェレットの病気や10年間飼っていたカメの死など、
日常に見え隠れする生き物の生と死。
「当たり前」の毎日を大切に思う
彼らのデザインや物づくりに対する姿勢がありありと伝わってくる。

「お店のサイズ、人に届けるサイズ、商品のサイズ・・・
結局、自分達ではかれるサイズを模索していったら、
こういう形態になった。」と瀬戸さんは言う。

「自分たちのコンセプトを作品や商品に入れ込んでいく上で、
通常の基準に当てはめるのはなかなか難しい。
企業で商品化するにはもっとマスに向けて薄めなきゃ
いけないし、デザインだけに携わると、
全く違う意図のものになったりすることも多い。
だから、核となる自分達の息のこもったプロダクトを、
自分達の手で考えて作って、販売していける
サイズを大切にしてるんです。」
工房とショップが連動しているからこそ、
お客さんの意見から機能が追加されたり、
逆に退化することもある。
これこそ、九印のプロダクトの進化の過程なのだ。

「―生活の中からデザインが生まれ、それがまた生活にかえる、
自然の営みだと感じます」
という「九印記」のフレーズからは、彼らが理想とする
デザインのサイズがよくわかる。

「このサイズって、現代手工業乃党にも
当てはまるんじゃないんですかね。
えーい面倒くさい!自分が出来る範囲から始めていこう!
って、みんなやってるわけじゃないですか。」
と最後に言われ、思わず肯いてしまった。

自他ともに認めるコンセプト人間である。

もちろん、コンセプトが優れているからといって
形がいいとは限らないし、美しいデザインに必ずしも
コンセプトが必要だとは思わないが、

モノの考え方から日々の暮らしにいたるまで、
ここまで徹底してコンセプトを貫いた物づくりは潔くて、
気持ちよいと感じる。


九印(キュウジルシ)
所在地 東京都武蔵野市吉祥寺本町2-6-8 2F
URL http://www.9brand.com
Tel & Fax 0422-23-4011
Store Hours 13:00 〜 19:00 (月・火曜定休)

東山風 (1971生)
鉄をあつかう技術を幅広く持つ工房で修行。
その後、家具メーカーの企画開発部で試作・特注製作を担当する。
2002年に独立し、個人邸や店舗の金属を使った家具・什器を製作しています。



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