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ホーム > モノ作りの現場から > agari 東山風 #008



鉄は熱を加えると伸び縮みして暴れるので、溶接作業などの時はそれを計算しながら立体に組み上げていきます。
列車のレールなども含め、世の中の金属製品がそのように計算されて作られているのは、
寒熱による伸縮率が関係しているからです。

しかし、世の中には、わずかなズレも許されない現場があります。
今回はそんな、数ミクロンで繰り広げられる作業と、何億光年も先の出来事の話でも。

というわけで、ハワイ島マウナケア山頂にそびえたつ、
日本が誇る国立天文台の観測所「すばる」に行ってきました。(無理あります?)


これは「すばる」じゃないです。

そもそも、日本の国立天文台なのに、なぜハワイにあるのか。
マウナケア山頂の標高は4200M、気圧は平地の60%。
(だから空気も60%!)
乾燥していて地上の天候に影響されないため、
雲のない夜が年平均240日もあって、
世界中で最も天体観測に優れた場所だということです。
このため、ここにはすばるを含め
11ヶ国が運営する13もの巨大望遠鏡施設があります。
赤土の大地に白いドームが点在する光景は、
さながら火星基地に降り立ったかのようでした。


マウナケア山頂から望む。
別の星みたいです。

そんな「すばる」に行くのは、結構大変です。
ふもとから車を飛ばすこと、約3時間。
まずは高山病予防のために、
1時間ほど途中の観測所で休憩して体を慣らすのが規定です。
さらにぐんぐん登り詰め・・・たどり着いたそこは、まさに雲の上。

富士山の上をいく4200Mの世界は、
常夏の島ハワイにいることを忘れさせる雪景色でした。

小さなドアの呼び鈴を鳴らしてしばらくすると、
一人の女性研究者が僕らを中に迎え入れてくれました。


人の気配がないドームの周囲は、この世の果てのような孤独な世界。

ドーム内は‘中’と言っても、外よりさらに寒い。

温度の上昇で蒸気が蒸発したり、微妙な風の動きが出たりして
機器や観測結果に影響が出るのを避けるために、
気温は常に約0度に保たれているそうで、
観測作業を行う研究者の人たちは
本当に過酷な現場にいるんだなーと実感。


スタッフの説明を受けながら巨大なエレベーターにのる。
ハッチが上下に開閉してカッコイイ。

見学者は入り口でヘルメットをかぶり、
エレベーターで展望デッキがある3Fに向かいます。

「すばる」は世界最大級の光学赤外線望遠鏡。
その心臓部には直径8.3Mもある反射鏡が設置されています。
重さ23tもあるこの巨大鏡、単一鏡(1枚鏡)としては
世界最大で、厚みはなんと、わずか20cm。


巨大望遠鏡の中心部。
中央に鏡が設置されている。
観測時は奥の扉が開く。

天体からの微弱な光をたくさん集め、
そこからシャープな画像を得るためには、
望遠鏡の命であるこの反射鏡を
いかにゆがみなく動かせるかが要となります。

鏡の下には「アクチュエータ」と呼ばれる261本の柱があって、
鏡のゆがみを常にコンピュータ制御で補正しています。
世界の名だたる大型望遠鏡の中でも特に評価の高い
「すばる」の観測精度と高解像度は、
最新の技術とスタッフの涙ぐましい努力から生まれているんです。

鏡自体も精度を極め、製作時、決め手となる研磨は
振動のない旧い鉱山の坑道の中で行われ、
最終的には職人が1時間交代で手作業で磨いたとか。

というわけで、この巨大反射鏡の涙ぐましい製作過程、
詳しくは「プロジェクトX」でどうぞ。

ちなみに、「すばる」製作には8年の歳月と、
400億円が投入されたそうです。
(見に行かないと。税金っすから・・・)


反射鏡は定期的にはずして1Fの巨大装置で洗浄される。

こうして世界一大きく、滑らかに磨かれた鏡は誤差0.014ミクロン
(=髪の毛の1/5000、と言われてもよくわからないけど。)
という驚異の精度で天体の光を集めるのです。

さらに、ドームの開閉を調整して空気の乱れを少なくし、
星像の乱れを抑えて観測するわけですが、
人が出入りすると温度差が生じる可能性があるため、
観測は人も中に入らず、隣の建物からの遠隔操作で行われます。

さて、そんな技術と努力の甲斐あって、
「すばる」はなんと128億光年先の銀河の観測に成功しています。

つまり128億年前の光を見ているわけです。
現在の研究では、ビッグバンにより、宇宙が誕生したのが
137億年とされているから、この星の観測が
相当すごいことがわかります。



また「すばる」の公式HPでは、星が誕生する瞬間や、
死に逝く様をとらえた写真が見れて、これまたなかなか壮絶です。

(注:光の進む速さは、1秒間に30万キロメートル(地球7周半相当)、
1年間に約10兆キロメートル。これを1光年と呼びます。)

128億光年先と、0.014ミクロンって・・・
ミクロとマクロが共存するすごい世界です。


途中の観測所で購入したワッペン。
カッコイイ。
ところで、4月14日付のネイチャー誌に掲載された報告によると、
「すばる」の観測から、これまで知られているなかで
最も鉄組成の低い星が発見されたそうです。
現在では、ビッグバン直後、数億年のうちに
最初の天体が形成されたと推定されており、
これをきっかけに当初ガス(水素やヘリウム等)だけから
成っていた宇宙が、多様な元素を含むように
変化していったといいます。

太陽のわずか25 万分の一の鉄組成しかもたないことから、
今回発見された星は宇宙の第一世代星と考えられ、
最初の星の形成や元素の起源の謎を解く鍵となるとか。

宇宙の始まりに鉄はなかったと思うと、今、自分が毎日鉄と
向き合って仕事をしているのが感慨深くなるから不思議です。

鉄でまとめたってことで、どうっすか?


今月の仕事

テーブルの天板にサイン入りSUSのプレートが貼ってあります。

実はレーザーを使っての彫りこみです。
初めてやったのですが、結構かっこよくないですか?

使えそうです。

東山風 (1971生)
鉄をあつかう技術を幅広く持つ工房で修行。
その後、家具メーカーの企画開発部で試作・特注製作を担当する。
2002年に独立し、個人邸や店舗の金属を使った家具・什器を製作しています。



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