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ホーム > モノ作りの現場から > agari 東山風 #009




鉄の材料のひとつに、表面が黒い「黒皮」というものがあります。
塗料のマットな黒とは違う、青みがかった黒色が味わい深く、好きな材料のひとつです。

「黒皮」とは、鉄を1200℃程度に加熱し、圧延(逆方向に回る2つのロールの間に通し、
加圧して伸ばす)していく過程に出来る酸化皮膜のことです。(写真1)
この皮膜により、すぐには錆が出にくいのが特徴で、建築現場などでも多く使われています。


黒皮材はサイズによってない物もある。

この材で家具や什器等の製作を依頼すると、
普通は嫌がられることが多いようです。
表面が硬い皮膜で覆われているため、
溶接するとその皮が弾け飛んで作業がしづらい上、
きれいに仕上げるのが難しいからです。

今回は黒皮の鉄板(3.2mm厚)を使ってホルダーを作りました。


手動ベンダーで曲げる。


1枚の板をベンダーで曲げて溶接し、つなぎ合わせます。




削ると地金が出る。
この磨き跡を活かすのもあり。

その後、溶接部分を削るのですが、
磨くと黒皮が剥れて下の地金が出てきます。
その部分をデザインとして活かす場合もありますが、
黒皮の色になるべく近づけた仕上げにする場合は、
バーナーで地金部分を焼いたり、
(注意しないと熱で材が歪むこともある)
黒染め剤等を使うなどして色をなじませます。


黒染め剤でなじませたもの。

最後にクリア(透明色の塗料)を塗って完成です。
クリアを塗るとさらに深い黒色になります。
月日が経つと、室内の環境によっては
ひび割れのような錆が出てくることもあり、さらに風合いが増します。
(錆は手につくほどではないですが、気になる方はご注意を。)



金属でありながら深い表情を見せる黒皮材は、
木などの自然素材とも相性がよく、
落ち着いた空間に溶け込みます。


飾り気のない空間に置くだけでも、
暖かな存在感をはなつ黒皮を、
時代に流されず使い続けていきたいです。





――作ったモノはどこに行くのか。

店舗等の什器はもちろん、個人邸で大切に使ってもらった家具も、
何十年も経てばどんな運命を辿るのか誰にもわからない。

毎日モノを作っていて、ふとそんなことを考えることがある。

先日、「グローバル・スーク」という名の
一風変わった企画展を見てきた。

会場は小石川の広大な植物園の傍らにある、
明治時代の木造建築を利用した、東大総合博物館だ。



博物館外観

館内の什器も、長い間大学で使われていたデスクや書棚
などが再利用されており、その多くは明治時代、
欧人教師(「お抱え外国人」)が西欧の家具を元に
当時の日本の職人に作らせた特注品だという。



外人教師がオーダーした贅沢なデスク

ここの常設コレクションは、東大の医学、建築、生物学などの
研究室が代々保管してきた膨大な量の標本や模型、道具類だ。

かつては技術開発や研究の最先端にあったモノも、
自然科学の発展過程で置き去りにされていく。
開発現場では通常、容赦なく捨てられていくモノが、
<過去の遺物>として偶然ここに辿り着き、余生を過ごしている。

今回の企画展が面白いのは、一方で、
通常は価値がないとみなされる市場のみやげ物、
キッチュな玩具、「ごみ」までもが<過去の遺物>たちと
ごちゃ混ぜに展示されていることだ。

これらの展示物は、HPの呼びかけを見た人々により、
身近にあって美しいと感じたり、思い入れのあるモノとして
世界中から送られてきたらしい。


機械模型と折り紙の恐竜

価値はあるけど不要になったモノと、一見価値はなくても
誰かに見出されて特別になったモノ。

通常出会うはずのないモノ同士が出会い、
不思議なストーリーを喚起する。

企画展を手伝った知り合いから、
収蔵庫の入り口に置かれた重くて動かせない機械装置の話を聞いた。
その装置は、ある研究者が手作りした試作品らしい。
どうしてもそれを残したかった彼は、廃棄を避けるために
土台をコンクリで固め、自らの研究室の床に埋め込んだ。
研究棟改築のため捨てられそうになった際、
彼の執念は実を結び、この博物館に収蔵されたという。

こんなにまでしないと意図的にモノを残せないとしたら、
持ち主や用途を変えながら、何万分の一の確立でモノが
偶然に残ること自体が奇跡にも思えてくる。

鉄で作ったモノは最終的に溶かされて
元の素材に戻り、また生まれ変わる。
それまでにどんな人や場所と出会っていくのだろうか。





[A-temporary−グローバル・スーク]

会場:東京大学総合研究博物館小石川分館
期間:5/27-7/31,2005

http://www.sergiocalatroni.com
http://www.um.u-tokyo.ac.jp


東山風 (1971生)
鉄をあつかう技術を幅広く持つ工房で修行。
その後、家具メーカーの企画開発部で試作・特注製作を担当する。
2002年に独立し、個人邸や店舗の金属を使った家具・什器を製作しています。



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