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ホーム > モノ作りの現場から > agari 東山風 #010




先月、鉄の黒皮材の話をしましたが、
今月は偶然にも黒皮材で大量の棚受け(壁付けのディスプレー台を載せる金物)を製作することになりました。
特注サイズの鉄の輪を組み合わせたデザインだったため、鉄輪の製作から始めました。
その数、数百余り・・・


芯に丸棒を巻きつける





治具(ジグ)で組み立てる





輪の周りの黒皮材





完成





取り付け工事中



まず、芯となるパイプに丸棒を巻きつけて、輪を作ります。
材料の丸棒が太くなるほど、巻きつけるのに力が必要となり、
太棒の時はバーナーであぶることもあります。
ただ、火を入れない方がきれいな円が出来るため、
多少の太さであれば力ずくでやるようにしています。
自分自身も、芯となるパイプ周りを
ぐるぐると回りながら作っていきます。
何百回もぐるぐると・・・
傍から見ると、かなりおかしな人です。

こうして出来たコイル状の鉄を、1つずつ手で切断し、
ねじりを直して輪の形にしていきます。

しかし、これではまだピカピカの磨き色のままなので、
輪部分以外の黒皮部材と風合いを合わせるために、
今回は油焼き風に加工してみました。
油焼きとは、火で鉄をあぶりながら油を塗るという工程を
何度も繰り返し、表面に皮膜を作っていく作業です。
(今回は、まわりに使った黒皮材のさらっとした風合いに
合わせるため、回数を減らして調整しています。)
防錆と黒色に変化させる効果がある、昔の錆止め技術の一種です。

これに関連して、今回は防錆にまつわる話でも。

さて、ある本に60年代、日本の鉄鋼業界では、
「錆にかかわる研究なんて儲からない」と言われ、
鉄は朽ちたら終わりという構図があったという話が載っていました。
著者は、それから30年後、経済大国となってはみたものの、
あちこち錆だらけになった東京の街と、
古い住宅でも錆びた箇所がない、つまり生活すべてに
手入れが行き届いているヨーロッパの状況を比較して、
使い捨て大国ニッポンの現状を嘆きます。

しかし、近代の工業化が始まる以前、
日本では鉄の産出量が少なく、貴重材でした。
このため、鉄製品に様々な防錆加工を駆使して大切に扱い、
最終的には小さな鉄片も再利用していたと言います。

かつて防錆技術として一番よく使われたのが、
上に油や漆をかける方法。
特に、外で雨晒しになる鉄製の鍵や、
日常使う和箪笥の取手などは、漆塗りにされました。
また、釘などを絹布に包み、
蒸し焼きにする錆止め技法も用いられたとか。

このほか、いわゆる“焼入れ”して
鉄を黒色に変化させる方法もあります。
一口に錆といっても、実際は赤錆と黒錆とに大別され、
それぞれ性質が違います。
よく見かける赤い錆は湿気を含みやすく、
腐食をどんどん進行させるのに対し、
黒い錆は粒子が細かく艶があり、皮膜が赤錆の付着を防ぎます。
黒錆は通常の状態では発生しないので、
一般には高温に熱した後、水に入れるなどして、
一気に冷し、黒錆びを付ける手法が使われます。
「お歯黒焼き」とも呼ばれたこの方法も、
家具の金物をはじめあらゆる鉄製品に利用されたらしい。
また、鉄製骨董品のコレクターはいかに美しい黒錆を発生させて、
好みの「鉄味」を出すかに苦心するとか。
“錆をもって錆を制す”。
長い歴史が生んだこの生活の知恵は、現在も使われています。


その昔、火事の後には必ず
鉄釘を拾う人がいたと聞いたことがあります。
19世紀、遣欧使節団に参加した福沢諭吉は、
アメリカのゴミ捨て場で鉄製品を見て、
ショックを受けたという逸話もあるくらいだから、
当時の日本では鉄はよっぽど大切に扱われていたのでしょう。
湿気が多いこの国で、科学的組成もわからぬ時代に、
鉄を錆から守るため闘った人々は
さぞかし大変な苦労をしてきたことでしょう。
錆を制して鉄を活かし、作られたものがまた再生し…
という、古代から続く大きな循環の延長上に、
鉄を扱う自分たちもいるような気がします。

<参考>
井上勝也『錆をめぐる話題』,裳華房1994
飯田賢一『日本人と鉄』,有斐閣 1987

まあ、有名なインドの「アショーカ王の鉄柱」のような
奇跡もありますが、いくら防錆加工をしていても、
手入れは必要ということで。

*アショカ王の鉄柱:デリー郊外に1500年前に建てられたのに、
全然錆びていないと言う不思議な鉄塔。
http://www.indiatraveltimes.com/delhi/delhi.html



東山風 (1971生)
鉄をあつかう技術を幅広く持つ工房で修行。
その後、家具メーカーの企画開発部で試作・特注製作を担当する。
2002年に独立し、個人邸や店舗の金属を使った家具・什器を製作しています。



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