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ホーム > モノ作りの現場から > agari 東山風 #013




中目黒の住宅街の中に埋もれるように建つ、古い工場。
子供の頃、勝手にもぐりこんで遊んだような、あの手の建物だ。





















広さにして約50坪。
崩れそうなこの建物にひと目惚れしたのは、
ジオグラフの高木隆亘氏と加藤匡毅氏。
前の会社の同僚であった二人は、
現在は建築やインテリアをはじめとする
ライフスタイル全般の企画、設計を行っている。
彼らは春から多くの友人や知人の業者と一緒に、
ここの改装工事を進めている。
そういう自分も柱やサッシ枠など
見えづらいところの製作に携わっていて、現在も進行中だ。

中に入ると、体育館のように広い。
外の様相とは異なり、
中は真っ白な壁で囲まれた現代的な空間だ。
だが、天井を見上げると一転、建てられたときのままなのか、
むき出しの梁が、異様な存在感を放つ。

建設は戦時中の1943年。
中央に壁や柱がなく、ドーンと抜けた建築は、
おそらく軍事工場として建てられ、
戦後は木工所として使用されてきた。
60数年の時を経てまだ健在なのは、
部材を三角形に組んでいく「洋風小屋組み(*1)」という
構造によるらしい。

「先日、好きだった清家清(*2)という建築家の
展示会に行って驚いたんです。
ここと全く同じような建築が
清家のマスタープランの中にあったんですよ。」


戦時中、海軍に所属した清家は、
29棟もの木造軍事工場を設計したという。
かつて、清家自身も
オープンプランを必須とする格納庫の設計が、
自身の設計プランに影響を与えたと回想している。

構造や柱や梁の関係が全部おなじな図面を見て、
「清家清がプランした建築でぼくらが今、
設計を生業(なりわい)としていることに、
ヤッター!っていう気分でした。
ぼくらは六十数年後、
偶然にも屋根部分は全くいじらないプランをたてていた。
だから、今もそのまま残っているわけです。」


気に入ったからそのまま残した「上」(天井部分)と、
清家のオープンプランを“残して”改装した「下」の仕事場部分。
単なる見た目の素材やスタイルの対比ではなく、
遠く離れた2つの時間が上下に並行して流れていく。

さて、「今やろうとしていること」を表現したという「下」部分。
このだだっ広い「ワンルーム」は、
中央に仕事机がぽつんと置かれ、
まわりにはバーカウンターやDJブース、
スケボーのランページといったモノまである。

「普通、オフィス等の設計では、
遊び的な(余計な)モノやスペースのプランは
却下されることが多い。
例えばそれが占める2平米の賃料とか考えて、
あと3人は従業員を座らせられるとか。
でも、ホントに大切なのは
それを作ったことによって生まれる効果。
その余分を楽しむことによってより頑張れたり、
新しい発想が生まれたりすると思う。」


スケボーもバーテンもDJも、
彼らがこれからやりたいことである。
仕事の前に人生をたのしむという姿勢。
やりたいことに貪欲な二人に、オフィスや個人邸など
生活と密接に関わる空間のデザイン依頼が多い
というのもうなずける。
生活を楽しめない人に
生活を楽しむためのスペースの依頼など来ないものだ。

さらに、この「遊び」は
同時に異なる目的をもつ人々を引きつけ、
偶然の出会いを生む効果もある。
ここから、1から10まで段取るようなやり方からは
生まれ得ないような新たな仕事や価値が
見出されることもあるだろう。


清家清は、建具で自由に空間構成を変化できる
オープンプランが、そこに暮らす人々の関係をも
デザインする可能性を見抜いていた。
「常識」という足かせで空間を区切るのではなく、
あくまで自らのこだわりから
「そこにあるべきモノ」を選んでいきたいものだ。


ジオグラフ
http://www.geograph.jp


*1「洋風小屋組み」:主に枠組壁工法(ツーバイフォー)に用いる小屋組。部材が三角形に構成されているため、外力(風力、地震力)に対して変形しにくい構造をもつ。
*2清家 清:日本の伝統美を現代住宅に生かし、戦後建築に影響を与えた建築家。代表作は「私の家」「久が原の家」「森博士邸」など。軽井沢プリンスホテル南館など多くのビルも設計。




東山風 (1971生)
鉄をあつかう技術を幅広く持つ工房で修行。
その後、家具メーカーの企画開発部で試作・特注製作を担当する。
2002年に独立し、個人邸や店舗の金属を使った家具・什器を製作しています。



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