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ホーム > モノ作りの現場から > agari 東山風 #016


皇居内に現存する富士見櫓(やぐら)

「無血開城されたはずなのに、
江戸城(の城)ってどうしちゃったんだろ?」
と思ったこと、ありません?



重要文化財「旧近衛師団司令部庁舎」を利用した「国立近代美術館工芸館」

今も東京の真ん中に悠々と広がる皇居一帯。
でも実は皇居となっているのは
かつての江戸城の西の丸部分で、
本丸や北の丸は現在、公園になってること知ってました?
もちろん自分は知りませんでした。
今回は、そんな意外と知らない元江戸城内、
北の丸公園の一角に佇む
「国立近代美術館工芸館」に行って来ました。



「工芸館」館内


さて、国立近代美術館の別館である「工芸館」は、
明治期に近衛師団司令部の庁舎として建設され、
戦後廃墟となっていた洋館を再生した、
国立初の工芸専門の美術館。
現在は富本憲吉や浜田庄司、芹沢_介、
またルーシー・リーや志村ふくみなど、戦後を中心に
近代以降のさまざまな工芸作家の作品を収蔵し、
工芸や工業デザイン関連の企画展も行っているそうです。



ルーシー・リーの作品

モノ作りに携わっているものの、
自分にとっては「工芸」とは江戸城と同様に
知っているようで実態のわからない存在です。
素材と向き合い、それに伴う技術を駆使した造形制作
だとは思うのですが、職人、デザイナー、個人作家という
区別が存在する中、「工芸」にはさまざまな捉え方がある
というのが現状でしょうか。



1916年制作(「日本のアール・ヌーヴォー1900−1923」より)

元来、日本を含めた東洋の造形は生活の用途と
結びついたものが多く、
「美術」や「工芸」といった言葉自体が、
明治期に西洋から導入された概念だといいます。
(江戸時代には絵画や彫刻をも含む制作はまとめて「工業」と呼ばれていた。)
ところが、近代に入って「美術」と「工芸」を
はっきり区別する西洋的な概念が席巻する中、
「工芸」は次第に脇へと押しやられていきます。
そもそも19世紀ジャポニスムの流れの中で
日本の工芸品はヨーロッパで高く評価されたものの、
輸出目的で技巧に偏り、形骸化していった結果、
パリ万博(1900年)の頃には
もはや時代遅れになっていたらしい。
逆に西欧では19世紀末からのアール・ヌーヴォー、
アーツ・アンド・クラフツ運動をはじめとする
美術と工芸の枠組みを超えた生活芸術運動が登場。
日本でもこれに刺激を受けた画家や建築家によって
工芸やデザインへの取り組みが始まります。



写真じゃわかりづらいですが、なんかガラスが1つ1つ埋め込まれているかと見まがうような塗りです。

面白いのは、
アール・ヌーヴォーに影響を受けた日本の作家が、
単に西洋のデザイン様式を模倣したわけではないこと。
漆工芸や陶器、染物など絵画や書以外にも
幅広い分野で活躍した江戸琳派の再評価などを通して、
日本的かつ近代的な独自のデザインを目指して
日本工芸の再生に尽力したようです。
さらに、関東大震災を契機に生活の変革を求める機運から、
デザインや工芸分野への関心が高まったことも、
「工芸」の再生を後押しします。
こうして、1920年代、
代表的な美術展に工芸部門が加えられるなど、
「工芸美術」という分野が確立していったというわけです。



1893年制作の鈴木長吉「十二の鷹」
鷹です。鷹がいました。
リアルな鷹が12匹。
当時、日本の金工分野の最高傑作と言われたらしい。(常設展にて)

さて、これまで自分は「工芸」と聞いて、
技術を誇示し、これが美だ!
といわんばかりの「作品」というイメージを持っていたのですが、
実際モノを見てその変遷についてかじってみると、
心に迫り来る「モノ」もあり、むしろ「工芸品」として
一括りにしてしまう怖さに気付かされます。
なんでもかんでも「作家」や「作品」にしてしまう
「工芸美術」に賛否はあれど、
注目すべきは日本の工芸の再復興や、
アール・ヌーヴォーの流れ等が、
「美術と工芸」といった既存の枠組みやヒエラルキーに
揺さぶりをかける“運動”だったことだと思います。
デザインと製作のはざまを自由に行き来する
現代的な職人集団としての「現代手工業乃党」の活動も
また、次の時代を見据えた“運動”へと深めることが
今後の目標かな?と思う2006年であります。



江戸城天守閣跡

※ちなみに、江戸城の本丸は
1657年の大火で焼けたのち再建されず、
西の丸に機能を移してそのまま明治維新へ。
ところがさらなる火事でその西の丸御殿も消失し、
その後明治宮殿が造られて・・・ということらしい。

※琳派とは桃山時代の俵屋宗達を祖とし、
尾形光琳が大成した江戸時代の装飾芸術の流派。
【参考】「日本のアール・ヌーヴォー1900−1923」展覧会図録、東京都国立近代美術館



昨年から今回まで、もの知らずの自分が、このページを通して様々なことを調べ、考えることができた一年でした。本年もどうぞ宜しくお願いいたします。

2006年元旦

東山風 (1971生)
鉄をあつかう技術を幅広く持つ工房で修行。
その後、家具メーカーの企画開発部で試作・特注製作を担当する。
2002年に独立し、個人邸や店舗の金属を使った家具・什器を製作しています。



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