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ホーム > モノ作りの現場から > agari 東山風 #039



『部屋を彩るものホームアクセサリー』展が5月31日に無事終了しました。
今年も多くの方々にご来場いただき、ありがとうございました。

今回アガリは、「シカケモノ」と銘打って、フレームの中に針金で様々なオーナメント(吊るし飾り)
を吊るす仕掛けを考え、制作しました。





モノがそこに置かれていることが、
日常になっていく家という空間。
そこでモノは使われていくうちに、
その存在を特に意識されることもなく、
部屋の片隅に潜んでいくような印象を受けます。
(まあ、暮らしと共にあるモノとは本来、
そういうものなのかもしれませんが)

でも、部屋にそよぐ風を受けて何かがゆらいだり、
壁に影をおとしたり、
吊されたものが重なり合って音を奏でたりする。
そのような瞬間に、自分がその部屋にいることを
ふと意識することがあります。

そんなふうに部屋を意識的に感じる装置?仕掛け?
みたいなものがあったらいいのではないか、
というのが今回の出発点です。
部屋を飾る置物から、部屋の息づかいを感じるものへ。
これを何と表現したらいいのかわからないので、
とりあえず「シカケモノ」という名をつけてみました。


「シカケモノその一」w990*H400




「シカケモノその1」

フレームは厚さ2.3mmの、
微妙に黒色が異なる黒皮の板材を使用しました。
ランダムに切断し、モザイク状に溶接したものです。
仕上げに色を塗装するのではなく、
素材そのままの色を活かすにあたって、
板の裏側から溶接する際に、
溶接の熱で表に焼け痕が出ないようにと、
こっそり苦労しました。
まあ、わりと自己満足的な技術のチャレンジものです。
オーナメントは、風を受けて揺れ、
影が美しいようにと、試作を繰り返しました。
大小さまざまな単体を
モビール状に組み合わせることもできます。
カタチは、見る人のイメージを限定しないデザイン
(たとえば、葉っぱとか動物とか
ある特定のものを想像させないもの)を心がけました。
フレームに吊るされて、
それがいくつかのイメージに見えてきたり、
ひとつの形がさまざまな役について、
その時々の物語を作っていくようなものであるといいな、
と思っています。


「シカケモノその二」w460*H270





「シカケモノ その2」

ウサギだかロバだか、これだけは紙です。
しかも知人が中国の農村で、
お正月に障子に貼るための切り紙をもらってきたものです。
この小さなフレームは、今回、
「シカケモノ」としてやりたかったことの一つを見せるべく、
並べてみました。

フレームの中に、あるモノを吊り下げるだけで、
影絵芝居のように見えてくる不思議さ。
使う人が、気に入ったもの、気になったもの
(たとえばポストカードとか、写真や子供の自作切り紙、
押し葉とか)を自分で吊り下げて物語を作り、
画を完成させる。

そんなことを自分もやってみようと思い、
中国からやってきた動物の切り紙と
自分作の鉄のオーナメントを好きに並べてみました。
洞穴から出てきたウサギが、
月に向かって飛んでいくような、
そんな詩的な世界を想像してしまった
自分もいるわけです。ハイ。


「シカケモノ鉄と刺繍」w943*H353








「シカケモノ その三 」w387*H270

「シカケモノ 鉄と刺繍」

これは前回の記事で「刺繍もの」として前振りした、
斎藤まやさんとのコラボ作品です。
鉄の冷たいイメージに、
暖かでカラフルな刺繍糸やキラキラしたスパンコール。
糸を刺してもらったそれぞれのオーナメントは、
まるで化粧をしたり服を着せてもらったかのように着飾って、
手元に戻ってきました。
それまでモノクロだった影絵が、
カラフルな人形劇に生まれ変わった、
そんなリアルな存在感が増した気がします。

はて、オーナメントに刺繍されること
をイメージして作るとなると、どんなフレームがいいのか。
まやさんからは、
「やるならデコチャリ(電飾や金属パーツなんかが
やたらついた長距離トラックのように飾り立てた自転車。)か、
どシンプルのどちらかじゃないか」、というアイディア。
結局、敢えてそっけないフレームにして、
中のきらびやかな吊り下げものを際立たせる案を採用。
シンプルでも印象に残るようなものをと考え、
金属のなまめかしい肌でいくことにしました。
具体的にどうしたかといえば、まあ、
いろいろと磨き試したわけです。
磨けば磨くほどぴかぴかになるので、どこでやめるか、
磨き痕をどう残すかを微妙に調整しながら制作を進めました。
ま、簡潔極まりない形でも、
意図に気づいてくれた方もいたのでちょっと嬉しかったです。

さて、昨年の展示会ではモノとコラボする形
(拾い物好きの方から「拾いもの」をお借りした)を
とりましたが、今回は初めての試みとして“人とのコラボ”、
コンセプトから人と共有するものづくりを経験しました。
これまでは、テーマを考え、制作し、設置するところまで
一からひとりでやってきたわけですが、
そこに他の人に入り込んでもらうというのは、
とても新鮮な体験でした。
その一方、ものづくりの過程を
人と共有することから生まれる、独特の緊張感は、
むしろ普段の自分の仕事に近い感覚でもありました。
自分がつくったものがどんな使い手に渡るのか、
あるいは、さらに他の素材などと組み合わされ、
どんな設計さんに料理してもらえるか。
そんなことを想像しながら、ものをつくる、
それが自分の日常仕事です。

「シカケモノ 鉄と刺繍」は、
「鉄に刺繍する」という2人とも見たことがないものを、
互いがそれぞれ想像しながら制作を進めました。
大まかなコンセプトを2人で共有しつつ、
アガリから斎藤まやさんへとまずオーナメントが渡り、
彼女の刺繍が完成する間に、
自分はオーナメントの変身姿を想像しながら、
吊るすためのフレームを制作。
具体的なカタチや色を見ないままに、
モノとイメージが行き来する、
そんなおまかせ仕事が往復するプロセスこそ、
言ってみればまやさんの狙いでもありました。
自分もこういうある種の緊張感があるほうが楽しんで
制作できるのかもしれないな、
そう気づいたのも、この展示会の大きな収穫でした。


東山風 (1971生)
鉄をあつかう技術を幅広く持つ工房で修行。
その後、家具メーカーの企画開発部で試作・特注製作を担当する。
2002年に独立し、個人邸や店舗の金属を使った家具・什器を製作しています。



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#037 2008.08 自分寄りのトロフィー
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