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ホーム > モノ作りの現場から > agari 東山風 #040



お久しぶりです。アガリでございます。

先日たまたま、「鉄:137億年の宇宙誌」と題した
マニアックというか、まずあまり見に行かない類の展覧会に行ってきました。
そこで、地球は「水の惑星」ではなく、実は「鉄の惑星」だったという驚愕の事実を知りました。
地球の重量の三分の一を、鉄が占めているそうです。重たいです。鉄球です。

でも、今日は鉄ではなく、銅を使った、これまた自分にとってはマニアックな、
あまりやらない類の仕上げをした仕事の話をしたいと思います。


依頼の時に添付されてきた参考写真。正直ほとんどわからない。


今回の依頼主は、設計デザインの「骨パンダ」さん。
個人邸の浴室入口の引き戸を銅板でつくる、
というこのプロジェクトは、1枚の写真から始まりました。
どこかの建物の壁に貼られた、古びた銅板の写真です。
「写真よりもモワレがランダムに出て、
もっと色の濃淡が広がっていくようにしたいんです」
メールには写真に添えて、そんな要望が添えられていました。

扉のサイズはなんと、高さ2m30cm、幅は2m。
扉というか、壁というような大きさで、しかも両面貼りとのこと。
さらに、一枚板でやりたいところだが、
無理ならば継ぎは最小限、
ただし接合はビスや釘、リベットなどの頭が
銅板の表面にでるのは避けてほしい
という注文つきです。

そんな微妙な色合いが出せるのかなど、
難しい条件満載ですが、
とりあえず実験することに。
悩んで頭を抱える間もなく、サンプル作りを始めました。


小さめの銅板をつかって実験中


銅の色付けの仕方としては、
銅に酸化液をかけて表面を変化させるか、
バーナーなど火であぶると、
依頼主の要望に近い色が出せるとふみました。
ただ、今回のモノは面積が大きいので、
火を使うとたわみなどが出て、
板として使えなくなる恐れもあります。
というわけで、火を使用する案は却下。

結局、黒化液(硫化液)を使うことにしたのですが、
これも濃度が濃ければ濃いでつけた途端に真黒になり、
薄すぎると酸化せずになかなか色がついてくれません。
また、その時にほどよい濃さに調整できたとしても、
気温や作業時間によってすぐに変化してしまう。

実際にどう変色していくのか、
虹色にゆらぐようなモワレを
いかにして均一に広げていくことができるのか、
沢山のサンプルを並べて試行錯誤を繰り返しました。




実際、「骨パンダ」さんの仕上げ方の希望は、
より高度なものでした。
一定のパターンのように
モワレが機械的に配置されるのではなく、
かと言ってただ単に朽ちてゆくようなものでもなく、
緑青がふくというのでもなく・・・
虹のようにグラデーションが淡く広がっていくような感じ。

こういうのって、イメージとして想像は出来るのですが、
やってみるとなかなかうまくいかないものです。

板を液に漬け置きしても、
思い通りの色の変化は見込めない。
刷毛でやれば刷毛目がつく。
布で拭くと布の拭き跡が残ってしまう。
霧吹きも雨粒のようになってしまって失敗。
指先が触れるだけでも跡が残ってしまうくらい、
繊細な作業を要求されるということを思い知らされました。

色の濃さも微妙な調整が必要で、
「いろんな色が混じり合っていくような、
曇りゆくような淡さと均一さ」
は、まさに最難関の課題でした。

あれやこれやと何度も実験を重ね、
ほぼお手上げ状態になりかけた時、
工房に「骨パンダ」さん登場。
さっそく、これまでの思考錯誤の経緯を報告。
「やはり無理かも・・・」とこちらが口元まで出かかった矢先、
「見たことがない仕上げ、一緒に作りましょうよ!」という
デザイナーの玉崎さんの熱い言葉。

「そりゃ、自分だってやってみたいのは山々だが、
このご時世、高価な銅板をこれ以上
実験に使い続けるわけにも…」
とまたまた喉元まで出かかったものの、
「結論を出す前に、二人でもう一度試してみよう」
と寸前で思い直したわけです。

手の使い方や、銅板の下処理の仕方、
または機械を使ったやり方などを、
二人であれやこれやとその場で実験し、道具も自作。
そんなこんなするうちに、
なんと、徐々に近いものが出来上がってきました。

ただ、これを本番で再現できるかは別問題なので、
再び同じように出来るよう、今度はひたすら練習です。
そして、手が覚えてきたところでようやく本番。



最初はこんなにピカピカな銅板で、
これに一発勝負で手をつけるのは、結構勇気がいるものです。



隅の方から徐々にモワレを広げていきます。


太陽の表面を特殊カメラで写したときの、
太陽フレアのような感じに見えてきました。





色の濃い部分と薄い部分をバランスよく配置しながら、
キャンバスに絵を描いていくような気分で作業を進め・・・



ワックスをかけて、とうとう完成です。
現場に設置してみると、
周囲のクールなコンクリートの中にあって、
銅の扉はなんとも言えない熱を帯びたような存在感。
モワレが浮かび上がって見える、
そんな霧がかったような仕上げになったと思います。



デザイナーさんと一緒に手を動かし、
新しい仕上げに挑んだことで、
引き出しをまたひとつ増やしてくれた仕事になりました。

というわけで、2009年にお世話になった皆さま、
ありがとうございました。
2010年もよろしくお願いいたします。(アガリ)


骨パンダ


東山風 (1971生)
鉄をあつかう技術を幅広く持つ工房で修行。
その後、家具メーカーの企画開発部で試作・特注製作を担当する。
2002年に独立し、個人邸や店舗の金属を使った家具・什器を製作しています。



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