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ホーム > モノ作りの現場から > Delivery Works 俵藤ひでと #007



今回は、過去に受けた仕事の中で印象に残っているものを振り返ってみました。

1年ほど前に、“リートフェルト”という20世紀前半
に活躍したオランダ人デザイナーの大きな展覧会が
府中市美術館と、宇都宮美術館で行われました。
その展覧会全体の企画・構成に、
学生時代の講師が関わっていて、
「アクリル使って何か特別に企画したモノ
作りたいんだけど、俵藤も一緒に考えてくれ」と
言われ、何も考えずに「やります」と即答しました。
なぜならリートフェルトは私が一番好きな
デザイナーだからです。
とは言っても、感情的に引き受けた仕事なので、
どうしよう?何作ろう?
やっぱり「レッドアンドブルーチェアー」かな・・・





赤と青の椅子

The Red and Blue Chair(オリジナルデザイン 1918年)
「赤と青の椅子」というタイトルの椅子は彼の代表作の一つです。
細い角材と四角い板材のパーツで構成され、
椅子の形態を可能な限り単純化し、
また赤・青・黄・黒というその色の使い方が印象的です。

私がリートフェルトを知ったのは学生の頃で、
授業の一つとしてこの椅子の模型を作らされました。
その時はただアバンギャルドなデザイナー
というイメージしかありませんでした。
しかし実は12歳で父親の家具工房で働きはじめ、
28歳で自分の工房を持ち、自ら家具をデザインし、
製造する職人であったことを知ります。
(モノ作りを始めた頃の自分自身と少し重なり、親近感を持ちました。)



職人リートフェルトのデザイン

リートフェルトがこの椅子を作った頃、
ヨーロッパでは伝統的な形式や様式を用いて
物が作られることがまだ主流で、と同時に
その様式からはなれたモダニズム、
新しい考え方“芸術と工業と手仕事の協和”であったり、
“生活と美術の統合”などと様々なデザイン思想や理念
が生まれた時代でもあったと思います。
ドイツでは「バウハウス」というデザイン学校が設立され、
そのバウハウスにも影響を与えた「デ・ステイル」という
オランダを中心としたデザイン運動に
リートフェルトは参加していました。

しかし彼がその思想に固執して物を作っていたとは思いません。
影響は受けたとは思いますが、あくまで職人という
実際に物を作るプロセスの中から生まれた
独自のデザインで、理念よりも経験を重んじていたと思います。
デザイン論議をぶつけ合う事を避ける人では無かった
と思いますが、自分の考えをごり押ししたり、発言するタイプ
では無かったようで、実際どのような考え方をしていたか
分かりませんが、背伸びして自分を大きく見せることなく、
マイペースで“モノを作る側も、使う側も楽しくなくては”と
遊び心を忘れず、ずっと仕事を楽しんだ人だと想像します。





尊敬をこめて

『“赤と青の椅子”へのオマージュ』というタイトルで、
全て透明アクリルで製作することにしました。

接着で組んでも形にはなるけど、美しいディティールには
出来ないと考え、やはりリートフェルトがこだわった、
「だぼ継ぎ」の手法を出来るだけ忠実に再現することに・・・
大変でした。
オリジナルの図面を製作図に起こし、完璧な寸法で
パーツを作らないと組めない事が分かっています。
何度も組み立てることが出来ない夢にうなされました。

そんな不安を和らげてくれるようにだぼの穴あけ加工を
お願いした工場が、穴と穴のピッチと寸法を
すばらしい精度(たぶん0.2mmくるってません)で
空けてくれました。マシンってすごい!
手仕事では無理ですね・・
背もたれと、座面のアクリルは特注で作りました。
(t=10mmのこの色透明アクリルは標準品にはありません)

パーツを梱包し、車に積んで、いざ宇都宮美術館へ。
素晴らしい建物とロケーションでした。
展覧会の準備は大よそ出来ていて、リートフェルトの
オリジナル作品が各地から集められ、内容も素晴らしいものです。
緊張感が増してきます。

私の作品の設置場所は、たくさんの光と景色を取り入れた
広い空間で、私はそこでパーツをひとつひとつ組み立てていく。
アクリルのパーツが光を吸収し、周りの風景を写し込んでいく。
新しい“赤と青の椅子”がここに完成しました。
緊張感から開放され、感慨無量の私
(泣いてもいいですか・・・)


この素晴らしい仕事を下さった(株)キュレイターズの榛澤さん、
この作品を購入して下さった宇都宮美術館に感謝します。

そして、生涯にわたって「手で考える」ことを、職人性を
貫いたと思われるヘリット・トーマス・リートフェルトに
敬意を示します。



ヘリット・トーマス・リートフェルト
Gerrit Thomas Rietveld(1888〜1964)

オランダ、ユトレヒト生まれ。建築家・デザイナー。


俵藤ひでと (1972生)
ICSカレッジオブアーツ卒
1995年 ひょうどう工芸入社
2002年 デリバリーワークス設立
アクリル加工を中心とする特注家具・照明器具・立体物のデザイン製作
オリジナル家具・照明の企画デザイン・製作・販売



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