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ホーム > モノ作りの現場から > Delivery Works 俵藤ひでと #052




最初の頃の打合せ風景。
左:中村ケンゴさん
中央:山口裕美さん


今回11月に行われたトークショーの様子。彼の作品に対する考えなどを、山口さんが引き出しながら、面白い話が沢山あった。


中村ケンゴ氏作
“スピーチバルーン・イン・ザ・ヒノマル”
松田太郎氏所蔵


完成したアクリルの棗。


ケンゴ氏からは「スパッと切り取った様なフォルムにして欲しい」と。
この棗は彼の絵の延長線上にある。


蓋に施した赤が、様々に映りこむ。
アクリルの良さを残す為、肉厚にメリハリを付けてある。
外はミガキ、中はマット仕上げ。
光が全体に回るはずだ。


抹茶が入った姿。客が来るの待つ。
お茶所の掛川市だが、煎茶の生産が主で、このプロジェクトがきっかけで抹茶を作る生産者が出てきてくれたそうだ。


やはり日本の女性の着物姿は素敵です。


この棗の合わせて、共色で一部色を入れたアクリルの茶杓も製作した。
銘は「アカノシルシ」。


掛川の現代美術研究会のリーダー山本和子さん。
彼女が山口さんに働きかけてこのプロジェクトが始まった。
お点前の様子。空気が引き締まる。


お茶会の様子。
和蝋燭の大きな炎が静かに照らす。
雰囲気を出してくれる。


茶会に出すお菓子敷きに、棗の図面を配置した。
お客さんにさり気なく、道具の背景を感じてもらえたらと。


小間の床に飾られた掛け軸、
ミヤケマイさん作「初まり、始まり」。
掛川に残る伝説がモチーフになっている。


小間(小さい茶室)で記念撮影。
右から、山本和子さん、山口裕美さん、中村ケンゴさん。


二の丸美術館の館長へ棗を預ける、寄託式の様子。


茶室からのぞく庭。
梅の木がこの茶会の時を知ってか、まさに満開であった。


聳えるは掛川城。その袂に茶室はある。
素晴らしいロケーションだ。
皆さんも掛川に是非足を運んでください!


さかのぼる事、昨年の6月、
とても丁寧な問い合わせのメールが届いた。
現代アートを中心にジャーナリストと、アートプロデューサー
をしている、山口裕美さんという方からでした。
静岡県掛川市の美術館とその地域を
アートで活性化するプロジェクトを企画されていて、
「美術作家さんとコラボレーションして、
アクリルで茶道具の棗(なつめ)を製作して頂けませんか。」
そんな話が始まりだった。

山口裕美さんは言わば現代アート、
作家さんを社会や人々の生活と結ぶ仕事をしている。
その手法は様々だ。
アーティストをもっとも近くから応援するその行動や活動から、
「現代アートのチアリーダー」の異名を持つ。
彼女が書いた本や手掛けたアート作品集は、
幾つも発行されている。

以前僕が茶会の為にアクリルの茶杓を作った記事を見つけ
連絡をしてくれた。
棗(なつめ)とは、お抹茶を入れるフタ付きの容器である。
伝統的な技法の漆器で作られてる物が多く、
他には陶器、磁器、金属製の物もあるが、
アクリルの棗なんてほとんど前例が無い。
しかも現代作家さんと一緒に作るとなると、
おそらく初めての試みであろう。

後日、山口さんは美術作家さんを連れて
打合せに来てくれた。
紹介してくれたその作家さんとは中村ケンゴ氏という方で、
僕は彼のアートワークを見て知っていたのでビックリ!

彼はマンガの吹き出しを文様化や擬人化したり、
ワンルームマンションの間取り図を
モンドリアンのように描いたりとポップな作風であるのに対し、
和紙に岩絵の具で描くという「日本画」の技法を使う。
独自の視点で作られるそれらの作品は海外でも評価が高い。
国内はもちろん海外でも数多く展示をやっている。

仕掛け人、山口さんの話は
「掛川現代アートプロジェクト」という企画。
今回で2回目の開催となる。
“掛川城の隣にある二の丸美術館と二の丸茶室を会場に
「記憶に残す現代アート体験」を実現するために、
現代アーティストをゲストに迎え、お茶会に使える道具を1つ、
職人的な技を持つ方とコラボレーションして作るというプロジェクト。
最終的にはその7つ道具を携えて、
全国の美術館や博物館で
お茶を楽しみながらの展覧会を行う予定。
お茶道具はすべてポータブルであり、
茶会では一期一会を創出し、
なにしろ美味しいお茶を飲めるという
素晴らしい日本独特の「アートイベント」”

前回は作家のミヤケマイさんと、
掛川の陶芸家の竹廣泰介氏による「掛け軸」の製作だった。

それから何度も山口さん、中村さんと打合せを重ね、
去年の11月には、舞台となる掛川で
今回のプロジェクトのプレイベントとなる、
彼等のトークショーにも同行した。
会場の美術館と茶室を見学できた。
掛川市の商店街のみなさんを中心とする
有志の方々で運営している「掛川の現代美術研究会」、
このプロジェクトの主催の方々と交流する事もできた。
本当に温かい人達ばかりで、この街を魅力的にしよう、
まずはこの街に住む人達がそれを再確認して欲しい
という思いで一生懸命に活動している。
その熱意と彼等の人柄に魅かれたし、
期待にも応えたいと思った。

どんな棗にしようか・・・僕達の想いは募る。

ただアクリルを素材に使うだけでは、
悪戯に奇をてらっただけで終わる。
中村ケンゴさんと僕が一緒に作る意義。
茶道具として珍しい素材だからこそ、
僕達が何故これを作るのかと言う強い動機が大事なのだ。

中村ケンゴ氏の作品に「スピーチバルーン」という
シリーズがある。
台詞の無い吹き出しは、
「話したい事が沢山あるのに言葉に出来ない」
「沢山話しているのに一つも内容が無い」
見る人によって捉え方は様々であるが、
その中に“スピーチバルーン・イン・ザ・ヒノマル”という作品があり、
日の丸が吹き出しの形で削られて行くその絵に
「日本を語れば語るほど日本が消えていってしまう」
そんな痛烈なアイロニーを感じた。

茶会を通して出会った人達に、こうならない為に、
日本人のアイデンティティーや文化を考えるきっかけ、
みんなで再認識できたら嬉しいなと。
吹き出しは茶会に参加した人達の
感じた言葉を並べたイメージに。
そんな想いを込め、スピーチバルーン・イン・ザ・ヒノマルを
棗にする事に決めた。

伝統的な形を否定するつもりは無い。
形をただ写したり、鵜呑みにするつもりは無いが、
茶道具として使える物にしなくてはならない事は前提である。
茶の湯の作法やその心を蔑ろにしてはしてはいけない。
気になったのはサイズ感や、重さ、蓋と容器のかみ合いだった。
僕のお茶の師匠である、茶会スタイリストの岡田和弘氏に
作ろうとしている物の意図、図面の細部などを見てもらい、
個人的に見解を伺った。
「アクリルなんだから
俵藤さんが美しいと思うディテールで良いと思う。
茶会をする事、客をもてなす事の意味をちゃんと理解すれば、
解釈は広がり、発想は自由になる。」
そんな事を言ってくれた。
「ひとつの茶会の為に道具を作るなんて、
こんな贅沢はない。素晴らしい茶会になるはず。」
心強い言葉だった。


蓋の全面にスピーチバルーン・イン・ザ・ヒノマルを配った。
蓋を一度赤く塗って、
後からサンドブラスト(砂を高速エアーで吹きつける技術)で
吹き出しの形で表面を削りとって意匠を施した。
ここがアート作品として一番大事と感じていた。
「消えていく日の丸」というイメージを製作工程で具現化した。

蓋は開けやすく、閉めやすく、そしてカタつかずを目指す。
良い道具の条件だ。
アクリルの塊を精密旋盤で削っていく、
その精度は100分の2〜5ミリといったところだろうか。

出来上がる物はきっとポップな感じになるけど、
実はかなりの加工技術を用しているのだ。
棗全体の表面は磨き仕上げ、
抹茶が入る内側はマット仕上げにして、
ぼんやりさせてある。
その方がデザインとして色気があると思った。


「夜の美術館と現代アート茶会」と題したこのイベントは、
2月の7日と8日の2日間で、夕方から夜にかけて行った。
茶室の明かりは、全て蝋燭だけだ。
呉服屋の女将で主催側のリーダー山本和子さんが、
茶会の道具を揃えて組み立てる。
彼女のしつらえが茶会の空気感を作ってくれる。
掛川の現代美術研究会のメンバーの方々の準備が、
さらに良い緊張感をあたえてくれた。
一席12名、全ての方のお顔を見る事が出来る距離感。

点心(軽い食事)は、全て地元掛川の物を使っている。
地元メンバーの方が、掛川ポークを桜の丸太で
丸3日スモークした自家製ハムが特に絶品でした。
そして飛鳥時代に作られたという日本古来のチーズ、
日本独自の乳製品「蘇」を復活させた地元の名産。
初めての味、食感。クリーミーでとても美味しい。

中村ケンゴ氏の友人であるソムリエの松田太郎氏が、
この日の食事に合うワインをセレクトして、
東京から駆けつけてくれた。
彼は美術コレクターでもありミュージシャンでもある。
多才な人だ。
彼は“スピーチバルーン・イン・ザ・ヒノマル”の所有者で
今回の為に大事な絵を貸し出してくれた。

山口裕美さん、中村ケンゴさん、松田太郎さん、
そして僕も全ての席に参加しお客様と交流する事ができた。
僕達が思う事、大事にしていることをお話しする
機会を沢山得た。

見た目だけでなく、心からもてなす事ができ、
お客さんの反応もとても良かったと思っている。
誰もが楽しんだ茶会でした。

静岡新聞や、その他のメディアからも取材が入り、
周りの関心が高いことも感じた。


お隣の二の丸美術館は、たばこ道具・刀装具・金工品など
美術工芸品、細密工芸品の収集が素晴らしい。
今回の茶会とセットで、夜の美術館を
LEDのペンライトだけで回る催しがある。
これも山口さんが考えた企画だ。
ひとり一人が作品にライトを当てながらゆっくり見て回る。
より集中して見る事ができ、見逃しがちな細部が発見できる。
江戸時代から、明治時代にかけて作られた
職人の仕事の素晴らしさにため息が出た。
技術的に同じ物を作るのが不可能な物さえあると思われる。

この茶会の後、僕等の棗はこの二の丸美術館に預けられ、
素晴らしい美術品たちの仲間に入れてもらう。

この小さな棗には、アートと手工業とデザインと文化
が込められていると自負している。

そして、僕にこの仕事を託してくれた全ての人たちに
心から感謝します。

掛川の皆さん本当に楽しかったです。
(第二の故郷のようです)
本当にありがとうございました!



茶会に来てくれた、静岡大学の先生でも居られる、
平野雅彦氏の記事。
素晴らしいレポートです。
こちらも是非読んでみてください。
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/754.html




俵藤ひでと (1972生)
ICSカレッジオブアーツ卒
1995年 ひょうどう工芸入社
2002年 デリバリーワークス設立
アクリル加工を中心とする特注家具・照明器具・立体物のデザイン製作
オリジナル家具・照明の企画デザイン・製作・販売



#066 2010.08 新しい五月人形
#065 2010.07 アクリルのトランク型ディスプレイ什器
#064 2010.06 展示会のまとめ
#063 2010.05 現代手工業展2010
#062 2010.04 アートとモノ作り
#061 2010.03 アクリル引きモノパーツ / 現代美術VOCA展
#060 2009.12 コレクションショー
#059 2009.10 ショップ什器 / 展示会のお知らせ
#058 2009.08 バーテンダー
#057 2009.07 多摩美素材実習
#056 2009.06 2009年展示会を終えて
#055 2009.05 展示会に向けて2/コラボレーション
#054 2009.04 展示会に向けて−アクリルで本をカタチ作る
#053 2009.03 アクリルの茶杓 / 伝統と現代
#052 2009.02 掛川現代アートプロジェクト/アクリルの棗(なつめ)
#051 2009.01 氷のアクリル
#050 2008.12 NYにて
#049 2008.11 ニューヨークへ
#048 2008.09 裏方にまわる楽しさ
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#040 2008.01 ご挨拶
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#036 2007.09 ポリへドロン
#035 2007.08 アクリルの茶杓
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#033 2007.06 展示会、真っ最中
#032 2007.05 仕事とは時間を共有すること/6月の展示会に向けて
#031 2007.04 モノを作り表現する女の子たち
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#027 2006.12 多摩美術大学にて
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