
自宅を改装したアトリエ

轆轤(ろくろ)

電気窯と小川さん(いいちゃん)

窯の中。絵付けした作品たち

棚風景

ふるい各種

乾燥中の作品たち

窯の中に棚を作る仕切り

再生粘土

赤土、黒土を混ぜて焼いたものに柄や釉薬をかけたもの

花器

花器
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今月は、私の友人である、小川由利子さんをご紹介します。
彼女は武蔵野美術大学の
工芸工業デザイン学科陶磁専攻にて学士を取得後、
沖縄県立芸術大学にて同じく陶磁で修士を取得。
その後東京に戻り、株式会社てんからてんに入社。
ショップスタッフとしてクラフト商品の取り扱いや、
併設する陶芸教室の運営などを受け持っていました。
昨年末に会社を退社し、自宅を改装して築窯し
(陶芸の世界では、自分の窯を持って
独立することを築窯と言うそう)、
本格的に陶磁器の制作活動を初めています。
彼女とは学生のころからの付き合いなので、
もうかれこれ10年になります。
専攻こそ違えど、同じ浦和住民であり、
バイト先も一緒で、ほぼ毎日顔を合わせていました。
その頃から、とても可愛らしいくて
一見ふわっとしていそうに見えるのですが、
実はしっかり者で、一緒にいて安心出来る子でした。
作品は自由で伸び伸びとしたもの、
色や形に彼女らしさが感じられます。
ビビットな色をパシッと効かせたり、
可愛らしい絵をカップの真ん中に描いたりと、
結構大胆な構成も得意。
でも不思議と全体に調和がとれていて、
違和感なく自然に思えるから、すごいです。
そうかと思えば、すっきりした色やシンプルな形のものを、
さくさくと作って見せたりもします。
しかも、彼女の食器、使いやすいのです。
どの作品も、自由に作っているようで、
ちゃんと使い手のことを考えながら作っているところが、
素晴らしいなと思い、素敵だなと思うところです。
最近はどんなものを作っているの?
と質問をしてみたら、
花器やテーブルウエア、小物入れや
シュガーポットのような蓋付き容器が多いかな、
と返ってきました。
彼女が作るものは、基本的に人が使うもの。
だから、機能のことはいつも考えているそう
(というか、考えてしまう、と)。
ただ、使うことばかりが先行するものというより、
機能も持ちながら、目で見て楽しめるものを
と思って制作しているようです。
どんな土を使っているの?
という問いには、主に磁器の土とのこと。
磁器の土は主成分が石粉、
そこに陶器の粘土を自分で混ぜて半磁器にして使っているようです。
磁器の、石ばかりの土では、粘りが少なく作る過程で
ボロボロと崩れやすくなるよう。
土を入れて粘りを増やして強度を保っているようです。
ちなみに、私は陶磁器について素人なので、
簡単に調べてみました。
磁器は、下地が白くなめらかで、絵付けなどに適しているもの。
高温で焼くので、かなり硬く丈夫。
また、素地が細かくほどんど水を通さないそう。
指でたたくと高い金属音のような音がします。
陶器は、粘り気をおびた多孔性の粘土を使用して作られたもの。
素地も荒く、吸水性があるが、基本的に釉薬をかけて
水を通さないようにします。
磁器と比べ、衝撃に弱い部分はありますが、
土の暖かい風合いを持っています。
指でたたくと鈍い音がします。
混ぜる土は、どんな色や種類にしたいかで
使い分けているとのこと。
アトリエに伺ったときは、赤土や黒土を混ぜた作品を
見せてもらいました。
それぞれ、下地の色が混ぜ込んだ土の色になっていましたが、
さらに、そこにどの釉薬をかけるか、どういう焼き方をするかで、
仕上がりがまったく変わってくるそうです。
そう考えると、かなりのバリエーションの仕上がりが考えられます。
なるほど、焼き物は奥が深いです。
築窯後、小川さんは、ムサビ時代の同級生の長谷川智恵さんと、
「knut(クヌート)」というブランドを立ち上げました。
彼女たちは、より豊かな生活環境を作るモノづくりをテーマに、
制作を始めています。
クヌートとは、2006年に人工飼育で育てられた北極熊に
名付けられた名前です。
絶滅の危機にありながら
奇跡的に育った白くまから、生き延びる強さを感じ、
また、その生命を懸命に守る人々の心に共鳴したそうです。
モノを作る自分たちも、文化の継承と共に、
自然環境保護に少しでも貢献したいという気持ちで、
「クヌート」の名前を借りてスタートしたとのこと。
彼女たちは、環境に配慮した、
リサイクル土を取り入れた制作を行っています。
一般的に、焼き上がった陶磁器の材料は再生しにくく、
割れたり失敗したものは破棄されています。
近年、原料である土の減少により、
このままでは地球環境を損なうのではという考えを持った
いくつかの産地が、陶磁器の再生利用を始めました。
しかしリサイクル土は、普通の土よりも扱いづらいく
高価格だそうで、まだまだ手が出しづらいとのこと。
それでも、knutの二人にとってリサイクル土を使うことは
とても意味のあることなのです。
100%リサイクル土を使うことはまだ難しいようですが、
リサイクル土をベースに普通の土を混ぜ合わせ、
制作に取り組んでいます。
環境や自然への関心は、今や世界中に広まっています。
ゴミの分別など、消費者側の意識だけでなく、
生産する側にも、むしろ生産する側にこそ
制作過程での配慮が必要です。
大会社も個人制作者も関係なしに。
私たちは、限りある資源を使って制作している
ということを実感しながらものを作っていくべきであると、
私も彼女たちの考えに賛同しました。
knut(クヌート)は11月11日〜12月25日の期間、
平和台にある「トトカッフェ」で初めての展示会を予定しています。
展示のテーマは「はじまり」。
初めてのモノということで、子供たちに向けた食器などを
中心に陶磁器作品を制作中だそうです。
ご興味のある方は、是非、お茶を飲みながら
クヌートの作品を見に行ってみてはいかがでしょうか。
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